クラウド量子計算入門
IBMの量子シミュレーションと量子コンピュータ
- 著者 中山 茂
- 判型 B5変型、344頁
- 本体価格 5,500円
- ISBN 978-4-87783-408-1
2016年10月10日 初版第1刷発行
本書について
本書では、量子コンピュータに必要な量子ビットと量子論理ゲートの基礎知識を説明し、これらの量子ビットと量子論理ゲートを使って公開されたIBMの量子コンピュータでどのようにクラウド量子計算が可能かを解説した。IBMの量子コンピュータは、5量子ビット上に、量子論理ゲートのアイコンをドラッグ&ドロップで配置するだけで量子計算ができるようにしたもので、量子プログラムの操作自体は子供でも可能である。これはあたかも音楽の5線譜に音符を配置すると音楽が流れていくようなイメージで、量子コンピュータが時間とともに計算されていく。ここで、クラウド量子計算では2つのトポロジー(接続形態)があり、理想的な量子シミュレータで計算する場合と実際の量子プロセッサで計算する場合とを選択できる。理想的な量子シミュレータは、雑音がなく理論通りに動き、従来のテキスト通りに即座に動作する。しかし、実際の量子プロセッサで計算する場合、世界中で利用されているために混んでいれば、何人待っているかが表示され、実際に計算実行されれば、待ち状態にもよるが数分程度で計算が終了したことがメール通知される。同じような量子アルゴリズムで実際に過去に計算した実験データがある場合は、それを表示させれば、待ち時間は発生しない。
本書では、IBMの量子シミュレータを使いながら、基本的な量子論理ゲートの使い方からいろいろな量子アルゴリズムに基づく量子回路と量子プログラムについて説明した。IBMの量子シミュレータでは、このように量子ビットと量子論理ゲートが配置されて量子計算され、最後に量子ビットを観測して量子シミュレーションの結果が出ることになる。しかし、量子ビットの状態がどのように変換されているか数式は表示されないために、十分に量子論理ゲートの入出力を把握しておく必要がある。そこで、IBMの量子シミュレーションの量子論理ゲートと量子ビットのベクトル計算式とを対比しながら解説したので、どのように量子計算されたかを、量子ビットのベクトル計算式でも確かめられる。そのために、量子ビットのベクトル計算式からIBMの量子シミュレーションの量子論理ゲートにいかに反映させるかも容易となるであろう。
目 次
- 第1章 はじめてのIBMの5量子ビット実験
- 1.1 IBMの量子シミュレーションと量子コンピュータ実験
- 1.2 クラウド量子計算に期待されること
- 1.3 クラウド量子計算への歩み
- 1.4 はじめてのIBMのクラウド量子計算
- 1.5 はじめてのIBMの量子シミュレータ
- 1.6 はじめてのIBMの量子コンピュータ
- 第2章 パウリゲートの量子実験
- 2.1 パウリゲートとは
- 2.2 恒等ゲートとパウリゲートを使った量子シミュレータ実験
- 第3章 アダマールゲートの量子実験
- 3.1 アダマール変換とは
- 3.2 アダマール演算による量子シミュレータ実験
- 第4章 位相シフトゲートの量子実験
- 4.1 位相シフト演算とは
- 4.2 T深度による量子実験
- 第5章 制御NOTゲートの量子実験
- 5.1 制御NOTゲートと重ね合わせ状態
- 5.2 制御NOTゲートによるもつれ状態生成
- 5.3 制御NOTゲートにおけるパウリ演算子
- 5.4 制御NOTゲートによる交換ゲート
- 5.5 制御Uゲートの生成
- 第6章 トフォリゲートの量子実験
- 6.1 3量子ビットのもつれ状態
- 6.2 トフォリゲートの量子実験
- 6.3 フレッドキンゲートの量子実験
- 第7章 ドイチ・ジョザ問題の量子実験
- 7.1 ドイチ問題の量子実験
- 7.2 ドイチ・ジョザ問題の量子実験
- 第8章 ベルンシュタイン・ヴァジラニ問題の量子実験
- 8.1 関数f(x)=x・aの定数aを求めるベルンシュタイン・ヴァジラニ問題
- 8.2 n=1のベルンシュタイン・ヴァジラニ問題
- 8.3 n=2のベルンシュタイン・ヴァジラニ問題
- 8.4 n=3のベルンシュタイン・ヴァジラニ問題
- 第9章 サイモン問題の量子実験
- 9.1 サイモン問題とは
- 9.2 n=2のサイモン問題の量子実験
- 第10章 量子フーリエ変換の量子実験
- 10.1 量子フーリエ変換の定義
- 10.2 量子フーリエ変換に必要な制御Sゲートの作成
- 10.3 量子フーリエ変換ゲートの実装
- 10.4 逆量子フーリエ変換ゲート
- 10.5 量子フーリエ変換によるシフト不変性
- 第11章 位相・固有値・位数推定問題の量子実験
- 11.1 位相推定問題の量子実験
- 11.2 ユニタリ変換の固有値推定アルゴリズムの量子実験
- 11.3 位数発見アルゴリズムの量子実験
- 第12章 ショアの素因数分解問題の量子実験
- 12.1 因数分解とユークリッドの互除法
- 12.2 ショアの素因数分解アルゴリズム
- 12.3 ショアの素因数分解のための量子回路
- 第13章 グローバーの探索問題の量子実験
- 13.1 グローバーの探索問題とは
- 13.2 グローバーの振幅増幅手法の量子回路
- 第14章 量子非局所性の量子実験
- 14.1 量子非局所性とCHSH不等式
- 14.2 GHZ状態の量子非局所性実験
- 第15章 量子通信の量子実験
- 第16章 量子エラーとスタビライザー測定
- 16.1 量子エラーとシンドローム診断
- 16.2 ビットパリティ識別
- 16.3 符号パリティ識別
- 第17章 量子誤り訂正の量子実験
- 17.1 量子誤り訂正のための符号化と複合化
- 17.2 量子誤り訂正ゲート